Seal the Love! Seal the Forever! -1-

ぼくにとって「人生を変えたゲーム」というのがあるとすれば、『Seal Online』以外には考えられず、生まれて初めて買ったファミコンカセット『頭脳戦艦ガル』もそれはそれでインパクトは強かったが、この『Seal Online』の足元にも及ばないのである。

2003年11月12日、ぼくは浅草橋の雑居ビルにいて、3Fと4Fの2フロアを借りているというGBMという会社の、4Fで待たされていた。

当時IT系コンサルタントの仕事をしていたぼくは、その一週間ほど前に、あまりにもざっくりとした、説明を受けていた。「韓国でオンラインゲームが大ヒットしていて、日本に進出してきている」「GBMという会社があるのだけれど、日本の商慣習がわからないので、総務や経理を手伝ってほしい」具体的な内容がまったく不明瞭だったが、仕事は仕事なので仕方なく、浅草線なんていう慣れない地下鉄に乗ってやってきたというわけだ。

今じゃ考えられないのだけれど、毎日スーツを着ていた。ネクタイも締めていた。コンサルティング業務なので、借りてきた猫みたいにおとなしくしていた。待っている間に周囲を見回したところ、この4FにはPCの載った事務机が一つ、役員用の大きな机がL字に一つ、打ち合わせ用テーブルが一つ。そしてほかには誰もいなくて、こんな殺風景な場所がゲーム会社? これから社員雇うの? というレベルであった。ちょっとすると、ぼくをここに連れてきた上司が戻ってきて、処理されていない領収書やら伝票みたいなものの束を机の上に置いた。これらをエクセルでまとめて会計士に渡してくれ、と。そして社員の健康保険や雇用保険の手続きもやってくれ、と。

まあ、そんなの難しいことではなかったのだが、問題はその後だ。「3Fにみんないるから、挨拶していきましょう」そしてエレベーターで3Fに降りると……

「え、こんなかわいいキャラクター、韓国で作れるの」エレベーターを降りてすぐ、目隠し用のパーティーションに貼られたポスターは二種類あって(後にわかったのだが、一つは韓国で描かれたもの、もう一つはみっき~さんの描いたものである)どちらも、従来ぼくが目にしてきた韓国製コンテンツにはまったくないタイプのものだった。そして、パーティーションを回り込み、ぼくの目に飛び込んできたのは、

当時は「ブラック企業」なんて呼び名はポピュラーではなかったから、表現するなら、そう、人が朽ち果てるような地獄、だった。そりゃ目隠し用のパーティーションがあるわけだ……

まず、人が寝袋に包まれて床に転がっていた。壁面はタバコのヤニで黄土色に染まっており、4Fの壁とまったく違う色をしていた。無造作に積まれた2Uのサーバーの排気口にはホコリが踊っている。タバコを加えて頭を抱えた人(当時のGBMの社長である)が、韓国語でサーバーの横の席の人に何か大声で言っていた。もうもうとした煙のなかで、鬱屈とした空気が渦巻き、緊張とも気だるさとも言えないよくわからない雰囲気がそこに流れていた。そりゃ人も転がってるわ。

「あ、どうも、あ、えー、チョウム・ペケッスンニダ(はじめまして)マンナソ、パンガプスンニダ(お会いできて嬉しいです)」

ナントカの一つ覚えってやつで、韓国語の挨拶をしたぼくは、内心「こりゃヤバイとこに来ちまったな」と直感した。

「えー。あなた、ゲーム、わかります?」

え、なんだ社長さん、日本語、流暢じゃないですか。韓国語しか通じなかったらどうしようって思ってましたわ。はっはっは。

「えーと、ゲームは好きですけど、このゲームは初めてです」初めてだし、そんなの初めてだろうがなかろうが方便だし、クソゲーだったら逃げ出したい。どうせ韓国製のゴツいRPGかなんかだろ、さっきのポスターはパッケージ詐欺みたいなもんだろ、そんなのいくつも見てきたぜ!そんな感じがぼくにはあった。

「そうですか、ゲームわかるんですね。だったら、彼に説明受けてください。彼、一番詳しいですから」

寝袋が転がっていた少し先に、細長い会議机に何台かPCが並んでいて、それらは一様に、3Dポリゴンで描かれたフィールドを映していた。その画面を凝視していた「彼」は、「えー、俺そんなに詳しくないッスよぉ」と言いながらぼくのほうを向いた。

「あ、じゃあ、説明しますんで、とりあえず、その椅子、座ってください」

彼が「GM Gazza」であることがわかるのは、それからもうちょっと後の話である。

ぼくは転がっていた丸椅子を手前に引いて、そこに座った。そこからの数十分、ぼくは「こんなゲームが世にあるのか」という体験をした。MMOならウルティマオンラインは知っていたし、ポリゴンのゲームならプレステで掃いて捨てるほどやっている。

けれど、「図書館の建物の上で、本が羽ばたいている」とか、「フィールドに出たら雨が降っている」とか、「宝箱だと思ったらパンチグローブでぶっ叩かれる」とか、「他のプレイヤーが橋の上で微動だにせず釣りをしている」とか、そんな(今となってはいろんなゲームで見すぎている感じもしなくもない)光景で心を動かされるなんてことは、後にも先にもこのときだけだったのである。

それが、地獄での、ぼくと『Seal Online』との出会いであった。

(気が向いたら、続きを書きます)

 

 

 

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